いつも旬な男の物語(89)〜先生の言葉に救われた⑩〜
しかし、それから数ヶ月経って俺たちの代だけの親睦会で会ったときの先輩は、逞し
く精悍な表情をしていた。
そう、仕事を終えてから帰りに道場に通って稽古をし、やっと黒帯を取ったのだった。
黒帯を取ってからは、生徒たちから一目を置かれ殴られたりすることは無くなった。
「なめられてたまるか!」「このままでは終わらない!」「見返してやるぞ!」という
先輩の執念が黒帯獲得につながり、自信にみなぎる表情へと変わったのだ。
その先輩宅に電話をしたら、幸運なことに彼は家にいた。
「突然、電話をしてすいません。実は先輩に少し相談したいことがあるんですが、時
間の方は大丈夫ですか」と俺は伝えた。
「ああ、いいよ。じゃあ外でご飯でも食べながら、ゆっくり話をしようか」と先輩は
言ってくれ、先輩の家の近くで待ち合わせて二人で近所の食堂へと向かった。
食堂に入りまずはビールで乾杯をした。
最後の親睦会からまだ1年ぐらいしか経っていなかったが、先輩は更に逞しさを増して
いた。
俺の方が意気消沈しているから、余計にそう感じたのかもしれない。
お互いの勤務先の話や近況を楽しく喋りながら、話は段々と本題に入っていった。
俺の思いの丈を洗いざらい打ち明けている間はまだ気分もよかった。
しかし、夕食が終わって帰る頃になると、俺はまたもや気分が憂鬱になってきた.....