いつも旬な男の物語(69)〜夏休みの思い出④〜
地域に大河が流れ、その堤防の土手や河川敷で遊ぶ小学生が多かった。
夏休みに入る前に担任の先生からいつも言われていたことで、今でもはっきり覚えて
いることがある。
それは「堤防に行くとコトリが出るので行かないように」という言葉だ。
「行かないように」か「行ってはいけません」か「こどもだけで行ってはいけません」
だったかは定かではないが、それはさして重要ではない。
「コトリ」という言葉を「小鳥」だと思った。
だから「小鳥なんか小さくて可愛いのに何で危ないんだろう?」
「ひょっとして鷲や鷹みたいなデカい鳥がいるので危ないのかなあ」
「そんなデカい鳥にさらわれてしまうから、行ってはいけないのかなあ」
とこどもながらに思っていた。
最後まで担任の話を聞いたら「コトリ」は小鳥ではなく「子取り」のことだとわかっ
た。
今で言う「人さらい」「誘拐」ということと同じ意味だ。
もっと前なら神隠しと言っていた。
家に帰って親に話したら、担任と同じことを言っていたのを覚えている。
そんな注意を聞いていたので、池で見知らぬ男たちに遭遇して捕まり、池の中に放り
込まれたときは怖かった。
「こいつらに捕まって連れ去られたら、もう家には帰れないかもしれない」と真剣に
思った。
でも、結果的にはそうではなかったので俺たちは助かった。
多分、ふざけて水遊びをしていた兄ちゃんたちだったんだろう。
これに懲りてしばらくは池に行くのをやめるのが普通なんだが、俺たちは全く懲りる
ことを知らなかった。
3日と経たないうちにまた釣りや遊びに池まで行っていた。
あれだけの恐怖体験をしても、こどもってまた同じことをするもんだ!
今から思うと滅多に味わえないドキドキハラハラ体験だった。