いつも旬な男の物語(106)〜先生の言葉に救われた㉗〜
「...先生は中学の時に野球部に入っていて...」
「練習中にバッターのゴロをキャッチしようとしたら、バウンドが変わって前歯に当
たって、歯が少しかけて...」
「こんな感じになったんだ」と言って俺の少し欠けた前歯を見せた。
「え〜っ」という驚きの声を上げる生徒
「痛そう〜」と顔を少し歪める生徒
「ははははは」と笑う生徒
無表情で俺の歯を見つめる生徒...などいろいろな反応が見られた。
マイクを握って話し始めた時はかなり緊張していたが、ものの数分で硬い緊張感はな
くなり、生徒たちの反応を見ながら話をすることができるようになっていった。
何人の生徒が俺の話に耳を傾けているかはわからなかったが、誰もが俺の話を聴いて
くれているという心地よさに俺は酔いしれていた。
みんな静かに聴いてくれていたのは、話の中身が俺の中学時代の思い出ということも
あっただろう。
前日に俺が授業時間に思いの丈を放ったということもあり、副担任のクラス以外の生
徒には少し興味があったのかもしれない。
授業で教えていなくて俺のことを全然知らない生徒たちには「如月ってどんな先生な
んだろう」という関心があったのかもしれない。
どんな理由にしろ俺の話を最後まで聴いてくれた生徒たちのお陰で俺の中から否定的
な考えは雲散霧消していた。
そして、彼らがおとなしく俺の話を聴いてくれていたのは.....